自然風の庭(ガーデン)作りの楽しさ、ポイントと、SDGsやローメンテナンスガーデンについて感じる事

1.自然風庭園の設計と施工を行う上で重要と感じる事

自然風なお庭を作る上で何が重要なのか、そんな事を考えながら仕事を続け30年が過ぎてしまいました。後輩や、専門学校の学生に庭造りを伝える立場になって20年程過ぎてしまいましたが、伝える事の難しさに壁を感じる日々です。

少しでも残しておこうと思い、今回はそんな私見を少し書いてみようと思います。

(1) 植物やお庭、自然などが好きである事

幼いころから母や祖母の花好きが影響してか、花を愛で、家族を喜ばす事がライフワークとなりました。何より大切なのは、好きで好きで、植物を育てたい、庭を作りたい!!そんな気持ちなのかも知れません。

そして、その事で多くに人達に笑顔が生まれる事に気が付いた時、植物を育てる行為は至福の時間に変わる事でしょう・・・

自分はそれを小学生の頃に体感してしまい、生きる喜び、生き抜く力となりました。

しかし好きと言う思いだけでは、仕事として長続きするわけもありません。まずは学び、庭づくりに参加して体力を培いつつ、庭の納りを現場で良く学び、その経験で得たデータの蓄積が宝となっていく事でしょう。そうした引き出しをどれだけ持っているかと言う事が、庭の表現を豊かにしていく上で欠かせないスキルになると感じています。

我々の頃はまだ徒弟制度の影響を受けた親方が多かったですし、パワハラも当たり前。学ぶ場もなかったので、学びたい親方を探すために業界に入り込み、学びたいと感じる親方がいれば手弁当で手伝いに行き、学ばせてもらう事に時間を費やしました。

私は当初、この領域は趣味の世界と割り切っていましたし、仕事として生活を支えてくれるのか不安を感じていましたので、庭を現場で学びつつ、夜学で建築を学び志しましたが、結局好きな造園に落ち着きました。そして建築で学んだ事もまた庭を作る上で大きな財産となりました。

(2) 絵が描ける事

絵が好きな人はこの世界に向いた存在ではないかと感じます。

まずは絵を描いてみましょう。バランスや植物達の色や形、質感、そんなことを頭で想像して、絵に描く事でワクワクできればそれはもう、庭の世界に入り込んでしまっていますね・・・

絵を描くためには、各種植物や材料のイメージが大切で、頭に入っていなければそれぞれの材料を調べながらまずは描いてみる事が、良い訓練になると感じます。

お庭は平面ではなく、立体なので立体的な空間構成能力も必要になります。

ただ、デザインだけでは庭の収まりが解らず、実際に作って管理し育てて見る経験は何より大切と感じます。絵を描く事、デザインする事は庭造りのスタートラインとなりますが、庭はそれ以上に奥深いものなので、生涯楽しめる世界なのです。

(3) 植物や材料の知識

お庭を作ると言う事は、決められた空間に立体的な絵を描くような作業です。絵具は構造物となる材料や植物達ですので、素材や植物を知る事、覚える事が必要になります。

ここで考えるべきなのが、絵は筆を止めた時点が完成ですが、庭は筆を止めてからがスタートであり、重要であると言う事です。

施工後、末永くお庭を楽しむためには、植物が元気で無ければその魅力は出て来ません。ですからそれぞれの植物を手元で育て、植物の生理、生態をしっかりと学ぶ事が重要です。

長くお庭で植物が元気に育つためには、植物にとって過ごしやすい環境を与えてあげる事が重要になりますから、環境づくりのための建築分野や、自然そのものが持つ摂理にも興味を広げる事が好きであれば、きっとお庭作りが想像や絵で終わらずに、具体化していく事でしょう。

2.想像したものが完成する楽しさ

写真は、先日水を回し始めたお庭ですが、足掛け3年が過ぎ、自分の庭作りでは異例の長さでしたが、そこまで信頼して頂き、お庭づくりをさせて頂ける年になった事に喜びを感じる昨今です。

そんな喜びとは逆に、昔に比べ植木の生産量も落ちていたり、生産、流通も流行物に流れる傾向もあったりで、一昔前は普通に植木畑にあった植物も姿を消す状況です。使いたいサイズの良質な植木と出会う事も等一期一会と言う時代になってまいりました。

今回はそうした事を理解して下さるお施主様のご意向で、ゆっくりと作る事ができましたので、植物達にとっても最良の条件で仕事が出来、植物達も皆元気に生育中です。

好きだけだった40年前には漠然と憧れていた庭作りでしたが、ストレスなく庭づくりをできるようになるまでには、体力も知力も足りなかった自分にとって、10年近い修行と苦しい時間は今思えば大切な時間でした。今では学び続ける事が何より重要と感じますし、好きだからこそ厳しい時間も耐えられるので、好きであるという事、好きなものを見つけ没頭出来る人生に感謝です。

3.作ったお庭を維持管理する楽しさ

お庭は作って終わりではありません。

完成がスタートなので、その後を見越した庭造りが大切になります。そしてローメンテナンスに作る事。とはいえ植物は育ちますから適切な手入れをする事が何より重要と感じます。

材料の植物の種類も増えておりますので、それだけ勉強せねばならない部分も増え、私自身も全て網羅できず日々が勉強です。

現在も多くの植物を育て紺屋の白袴状態で片付く間もなく、楽しくも苦しい状況が続きます。

師匠も良く言っていましたが、投資(植物を買い育てる事)が大切ではないかと感じます。その費やした時間分、植物のチョイスと植栽位置等を的確に見つける助けになりますし、その後の植物の生育も順調になり、管理も楽になるものです。

4.イベントに参加する楽しさ!!

お庭づくりと似ていて、勘違いの多いジャンルにイベントもあります。

最近は景気低迷で減ってしまい残念な事ですが、写真は西武ドームで開催されていた国際バラとガーデニングショウで主催者展示を任され行っていた頃の写真です。バラの貴公子事、大野氏が隠れていますよ~(笑)お茶目ですね♪

アドレナリンとドーパミンがドバドバ出るような、こうした夢の時間も、庭造りの励みとなりました。実際の庭造り、空間構成の訓練となり、こうした短時間決戦を20年以上こなしてきた事は良い経験でした。

ガーデンイベントは、展示期間を華やかに演出すると言う事が目的ですが、映えや夢を与える展示だけではなく、プラスして実際の植生に忠実であったり、実際の造園表現を取り入れたりする等、プロ意識を持ちたいものです。自分自身も植物的、文化的な背景他、多角的にイベントを豊かにし、ご来場の方々を喜ばせたいと考え挑んでまいりました。

植物の特性を知る事はローメンテナンスな庭や緑地作りに欠かせず、SDGsをこなす上でも特に重要な事です。ガーデンイベントにおいても、緑化や文化のお手本となるような、しっかりした骨格を持って進めて欲しいと願うばかりです。

5.実際の庭造りの現状と庭を作る楽しさ

ここからは実際の施工において重要な事を考えてまいりましょう。

(1) まず考える事は、地質と地形についてです

a. 地質は植物を育てる上で一番重要な部分

地上部以上に地下の根が健康に育つ事が、植物を元気に育てるために重要です。それは園芸を学び自分で色々な植物を育てて見れば良く理解できます。

園芸の芸と言う文字は、人がしゃがみ植物を植える意味を持つ象形文字なのだと師匠より教わりました。全ての芸の始まりは園芸なのかと、何だか妙に納得してしまいました。園芸には見せる芸の他に、育てる芸、育種する芸他、沢山の技術が詰まっています。

その中でも基礎は土であり、鉢栽培の場合、土や植物の性質に合わせた水やりもとても重要な事から、水やり3年と言う言葉も生まれました。

b. 建築後の土地は建築に重要な強固な地盤に改良されている

建築後に用意された庭用スペースは、建築引き渡し後は改良前のため排水も悪く、植物育成には好ましい土地でない事も多いものです。又、前に建物が立っていた跡地等、解体後の土地では建築解体の折に取り切れなコンクリート片他、色々な物が混入しているのが通常ですので、色々な植物に対応できる土壌を整える場合は、土壌改良を行う事で植物の生育が良くなります。

c. 実際に改良をどの様にしているか見てみましょう

まずは強固に締め固まった土を掘り崩す作業から行います。そして、できる事であれば掘った土を自作の篩を使って篩い、そこに堆肥や腐葉土、有効な微生物の種菌等を加え、植える植物の用途に合わせて改良していきます。

大変手間のかかる作業なので、状況に応じて局所的に行ったり、仲間を呼び寄せ一気に大量の土を篩ったり、臨機応変に行っていきますが、ストレスのないサラサラの土に変化する光景は達成感もあります。そしてその後の植物達が元気に育つ姿を想像すると楽しいものです。

良質の土に恵まれていれば問題ない事ではありますが、建築にとって最良の地盤は、植物にとっては悪い地盤で、突き締まり水はけも悪く、生育不良を起こす植物も多いため注意が必要です。

植物が元気に育つという事を一番に考える自分としては、庭を作る上で重要視している部分で、庭造りの大半と言っても過言ではありません。

d. より繊細な園芸植物や山野草を育てるために

写真は植栽地を掘り下げ園芸用の用土を入れる前の状況です。

イングリッシュガーデンやロックガーデン、他、山野草や園芸植物をより良い状態で育てるためには、園芸の心得を生かし、さらに土質に拘る必要性を感じてしまいます。

何故なら日本の気候は雨が多く、ヨーロッパのように冷涼で梅雨の無い国と異なります。又関東沿岸部のような亜熱帯に近い肥沃で雨の多い土地では、地中海やヨーロッパ原産の植物達はじめ、在来の山野草等にとっても本来の環境とは異なります。

その結果、初夏の湿気と暑さで植物達は徒長して倒れ、蒸れて腐り、ダンゴムシやナメクジの巣となりダメになるものが多いものです。

師匠の下でイングリッシュガーデンを志した30年前を思うと、簡単な植木向けの土壌改良を行い、繊細な園芸植物を植える事もあったので、多くの失敗経験も致しました。

最近ではオーストラリアや南アフリカ、メキシコなどの乾燥気味な気候の植物も多く使われるようになり、さらに植物を学び地質に拘る事が植物を楽しむ上で重要と感じます。

e. まずは排水良く、適度な保水性の有る環境作りを

今回は山野草やイングリッシュガーデンスタイル等を成功させるために、かなり排水良い土壌を客土しました。

ダンプで運んで来た軽石を中央植栽地に一度入れて、周囲の植栽地に分配していきました。表土は山野草用土系の園芸用土をブレンドしてふんだんに使っています。考え方としては大きな鉢植えのようなものです。排水管も通して、大量の雨が降っても直ちに排水して、不要な水は残さない構造にしました。

そして雨が降らない時期を想定して、自動潅水機も補助的に設置しています。

露や朝霧のある山間部と異なり、都内中心に空気は乾燥し、植物にとっても過酷な環境ですので、ミスター等を接続し、夜間に霧を出す事も植物を生かすために役立ちます。

f. 施工一年目に感じた事

最初はイングリッシュやグラスガーデン的な植栽でスタートしましたが、冬枯れ等を嫌うお施主様のご意向で、コニファー等を多用するスタイルに写り変わる中、植えた植物の抜き取りを行いました。これは良い経験で、植栽地の1年目の結果が良く分かりました。グラス類と宿根草類の根が見事な成長をして感動的でしたし、鉢植えと違い、土が良く広いと根の張り方が凄いですね。その割に地上部はしっかりと締まりつつ大株となり良い感じでした。

(2) 地形も合わせて重視しましょう

太陽光の入り方や通風、雨の当たり方等、植物を育てる上で重要な要素になりますので合わせて考え、植栽計画を練っていきます。

太陽は植物にとって主食であり、そよぐ風は有酸素運動のような働きをしますので、何方も植物を健康に育てるために欠かせぬ要素です。

春秋分を境に太陽は夏至に向けて北東より昇り北西に沈みます。この季節、太陽は北壁を照らす時間が長くなり、夏至の頃は南壁より北壁を照らす時間が勝ります。逆に冬至を中心に太陽は南東より昇り南西に沈みます。当時の頃は30℃近くまで太陽の入射角が下がるので、周囲に建築物がある住宅地では、一年を通じた日照をイメージする事が特に重要になります。

風の通り道もしっかりと確保するなど、できれば構造物にも配慮したいところです。

6.理想は庭に流れを作る事

私が庭を作る上で、できれば取り入れたいのが水辺です。

和風なら、筧と蹲等の簡単なシステムが古来から文化として育っていますし、スタイル、表現は色々ありますので水場を取り入れたいですね・・・

(1) 水は周囲の空気を冷やしてくれるクーラー

理科の授業で気化熱と言う言葉を習いますが、これが意外と重要です。

水が蒸発するには熱エネルギーが必要で、蒸発する時にそのエネルギー、熱を奪うのです。なので、水場は周囲より涼しくなるのが通常で、流れや小滝がある事でその効果は増して行きます。

乾燥する時期に湿気を与えてくれる加湿器の効果も合わせ、酷暑の多い夏や乾燥しがちな冬に、大切な植物達を少しでも良い環境で守ってあげたいと考えると、水場はどうしても加えたい要素となります。

(2) 豊かな空間の演出に

景観的にも水辺がある事で豊かさが増します。水の音やせせらぎの揺らぎは、五感を刺激し心の健康にも良いと学びました。植栽できる種類の幅もぐんと膨らみ、小鳥を始め、蝶やトンボ、他、多くの生き物が集まり、多様性が増していきます。

そうしたお庭の豊かさに癒されたい方にとっては水辺は素晴らしい演出をしてくれる事でしょう。

実際にこのお庭でも、メジロやエナガ等の小鳥が、群れで遊びに来て、水浴びを楽しむなど賑やかになりました。

7.水場作成に関する重要な部分と注意点

水場、特に流れの施工についてですが、まず構造の知識に始まり、自然な景観造り等、難易度の高い施工技術が求められます。

自然を無意識に見ている我々人間の多くは、不自然さも無意識に見抜き、何処か違和感を感じやすいものなので、自然の成り立ちや原理原則を学ぶ事はとても重要です。

さらに実作業においても、水漏れに関する知識をはじめ、ポンプの種類や流量、揚程等、ポンプの性質、寿命、配管の仕方、排水の方法、色々とあります。景観に関しても、自然な流れのメカニズムがあり、水は何故曲がるのか?から始まり、小滝の落とし方、音の出し方、水辺の植栽など、そのテクニックは実に奥深く楽しいものです。

8.水場、流れの見せ方、楽しみ方

小滝を如何に自然に見せるかは、親方達もそうでしたが、自然の中で遊んで育った方々が、圧倒的にその表現力が確かだと感じました。

(1) 見せる技術

水は高い所から低い所へ流れたり、低い所に溜まるように、自然にも一つ一つに規則性があります。では流れが曲がるのは何故でしょう?川底に、強い流れに耐え動かない石はどんな形をしているでしょう?そこには必ず理屈があります。自然からそれらの理屈を学ぶ事も又、自然な景観を作る上で重要と感じます。

前述した理屈はあるのですが、それをわざとらしく無く、自然にまとめるには、渓流で過ごす事から始めましょう。流れの景色の美しさを知る人は、流れの表現も豊かに演出する事でしょう。

なので、自然と大いに遊び、植生を学び、景色を学びましょう!!

自然を知る事が自然風の庭づくりの第一歩であり根幹であると感じます。

(2) 遠近法やダマし絵の技法も取り入れて

滝口等、水の湧くところは隠せと、師匠から教わりましたが、どうでしょうか・・・・

時に滾々と湧き出す源流をの景色を作りたい等、ダイナミックな構想もしたくはなりますが、限られた空間では景色として効果的と感じます。

それは奥深い感じを演出する事が、狭い空間であっても表現できる技術であり大切なのだと感じます。

今回も全長2mに満たない流れではありますが、雄大に、奥深さを感じさせるためにはどうすれば良いか?そんなことを作庭時は色々と検討しながら行ってまいりました。

写真で見ると、もう少し流れの奥の植栽を濃くしたいですね・・・

(3) 新しい事には苦労もつきもの

それから今回苦心したのは、レンガと言う素材の滝口作りでした。最初は自然石で作る予定でしたが、お施主様のご意向もあって、初挑戦となりました。

水を知ると、この構造で水がしっかりとカーテン状に落とせるかと言う部分は意外と難しいものです。

水量が豊富であればあるほど自然にそうなりますが、限られたポンプの容量でそれを成すのは容易ではありません。

この事は、流れそのものにも言えます、流れを深くしてしまうと、少量の水流では流れる雰囲気を表現できなくなりますから、浅くして底の地形に起伏を付ける等、色々な技術が必要になります。

こうした難しさを知れば知るほど、難易度の高い事を思い知らされるので、その分、設計段階から緊張感も増し、表現を成功させる技術を考え駆使するワクワク感も増していき楽しいものです。

国産とは言え、多少の歪みはあるレンガですから、今回もかなり材料を選び、意識して作り込みました。

今回は一先ず結果も出て目標はクリアしましたが、素材が変われば又一から考えねばならず、勉強の日々が続きます・・・

偶然の産物ですが、流れ落ちる水に、ひし形の模様が出来る事が分かり、その美さが良いなと感じました♪

新しい事を行うと、新しい発見や感動に出会えるのも良いですね!!

9.何でこんなに拘ってしまうのか?

良く仲間からも言われる事です。ただ穴を掘って、在来の実績ある造園樹木を植えればそれで庭になるんじゃないかと・・・

仕事として考えればそれが一番無難であることは間違いありません。きっと一番利益率も良いのではないかとも思うのですが・・・

これはあくまでお施主様のご意見を伺ったうえでの選択であり、お施主様の笑顔が見たくて庭を作るからと言うのが答えかも知れません。

和風、洋風、自然風、折衷案等、お施主様の思いに添いつつ、しかしそこで育つ植物の限界もあります。色々と吟味もしつつ、できる限りお施主様方の希望を叶えたいと言うプロ意識が自分を駆り立てるのでしょう・・・・

今のところ庭を作りたい意欲に減退も見られず、作ってみたい景色は次々に浮かんでしまいます。天職と思える仕事に出会えたことは幸せな事です。今後もご縁のある限り、私の挑戦は続きそうです・・・