水琴窟(すいきんくつ)と言う言葉をご存じでしょうか?お庭に興味を持つ方の中には聞いたことのある方もおられると思いますが、和風庭園の限られた場所にしか無いので、実物を見てその音色を聞いた方は意外と少ないかも知れません。

東京の世田谷区内で13年ほど前に作庭したお庭に設置した水琴窟
構造は色々とあるようですが、私は初めての作品でしたので常滑で焼かれた水琴窟用の甕を買い、基本を押さえて作ってみました。1mくらいの穴を掘り、透水シートで穴の内側や底を覆い、握りこぶしくらいの砕石を敷き詰めて行き、甕を伏せて据え付けます。甕底には穴が開いていて、そこから水滴が落ちる仕組みです。下には受け皿を設けて水を張り、落ちた水滴が音を発します。その音を甕が響かせる働きをするそうで、硬く焼しめた肉質の薄い甕が高音が響き良いと聞きました。又、甕の大きさにも理想があるようです。さらに落ちる水滴が単調にならず、ランダムに落ちるように甕底を加工します。この部分が作庭家の腕の見せ所で私も弟子にしか教えません。甕の周囲も握りこぶし程度に砕石や隙間のできるもので覆い、甕に直接触れる面積を少なくします。上部の甕底はそのまま蹲の海の部分に露出させて、砕石で囲った部分はセメントで壊れない程度に薄く蓋をします。露出した甕底とセメント部分は伊勢ごろたで隠す程度にしています。
水鉢から水をすくい海に流すと時、琴の音色のような水がはじける音が甕内で響き渡り、甕の穴より伊勢ごろたの隙間を抜けて外にこぼれだします。この音をどれだけ大きく外に響かせるかも腕の見せ所です。風流と言う言葉が似合う作庭家の洒落なのだと思いますが、私も先輩方から聞き学び、自分で調べ作ってみて、改めて日本人の技巧の繊細さや探求心を感じ日本の素晴らしい部分を感じています。再び水琴窟を作る機会はなかなか訪れませんが、もっともっと知ってもらいたい素朴な芸術です。